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星の光がこんなに綺麗だと知ったのは、何時の頃だろう。
アスカの操る弐号機が、迎撃のために射出されたのは僕が初号機にやってきたすぐ後のことだった。
「シンジ君、初号機は凍結中だ。 君をこいつに乗せる訳にはいかない。」
初号機を担当している顔なじみの整備員、神無月マサル一曹が、僕の顔を見るなり駆け寄ってきて声を掛けた。
「分かってます・・・でも・・・」
40歳を越えようかという神無月さんは、恰幅の良い体躯をしていて、長年陸上自衛隊の柔道大会で常勝を極めてきた強さを示している。
僕のようなひ弱な体型の僕が敵う相手ではない。 だから、僕は正直に自分の気持ちを伝えていた。
「アスカや綾波が戦っているんです。 父さんからの出撃命令が出るかもしれません! お願いします。」
「そんなことを言って、初号機を強行発進させるつもりじゃないのかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は何も答えられなかった。 図星だったから。
「・・・許可はできないな。」
その気持ちは、神無月さんに見透かされていたのだろう。 僕を一瞥した後、彼は断った。
ひとりぼっちの戦争
Nowhere soldier
C-part 乗り越えるべきもの・・・
Tomyu.S
「どうしてもですか・・・?」
僕は神無月さんの鋭い視線に抗いながら、再び訊ねた。
「君が碇司令のご子息であったとしても、命令は命令だ。」
ここに現実がある。 僕はエヴァのパイロットといっても、一介の子供なのだ。
大人達に意見したり、反論する機会すら与えられていなかった。
遠くでは零号機が使用するポジトロン・ライフルの準備が急ピッチで進められ、兵装ビルへと射出されようとしている。
「自分がいる限り、此処は通さない。 分かったなら、立ち去りなさい。」
そう言って、彼がポジトロン・ライフルの射出準備に気を取られた瞬間、僕は一気に駆け出した。
本当に嫌な予感がした。 遠距離攻撃用のポジトロン・ライフルを持ち出すなんて尋常じゃない。
使徒は遙か遠方からの攻撃を仕掛けているのか、よほど強力な相手なのだ。
このまま自分だけ何もせず、手をこまねいていることなんて僕にはできなかった。
こうなったら、強行突破しかない。 そう僕は思った。
しかし、僕はそのまま神無月さんに捕まり、背負い投げられた。
「通さないと言っただろう!」
強かに背中を打った僕の耳に、彼の声が飛び込んでくる。
「司令官の命令だ。 あきらめろ!」
そう言った瞬間、今度は直上からズシンと響く大音響が聞こえ、施設内が揺れた。
《いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 来ないでっ!! わたしの中に入ってこないでっ!!》
《アスカッ! 後退しなさいっ!!》
《いやっ!! 下がらないっ!!》
アスカとミサトさんのやりとりが聞こえてくる。
いったい外では何が起こっているんだろう? それに、アスカは・・・!?
「そうはいきません!!」
僕は真っ正面から、神無月さんを見据えた。
「仲間がこんなに苦しんでいるっていうのに、黙って見殺しにするんですかっ!?」
《ポジトロン・ライフル発射!》
《駄目です、強力なATフィールドを確認っ!! 軸線が逸れていきますっ!!》
《あああああっ!! いやっ、いやっ! いやぁぁぁぁぁっ!!》
その間にも、次々と発令所やアスカの声が飛び込んでくる。
襲われていることは間違いがない。 居ても立ってもいられない焦燥感が支配し、僕はとうとう忍耐の限度を超えた。
飛び込んでくる声に、気を取られた神無月さんの腹部に体当たりをして叫んだ。
「僕は初号機パイロットだっ!! 使徒を倒すためにここへ来たっ!!」
「ならば、俺を殴っていけ!」
掴みかかる僕の背中を思いっきり殴りつけ、神無月さんは言い放った。
「さぁ来いっ! シンジ君! 貴様の気合いを見せて貰おうかっ!!」
僕の体を突き飛ばした神無月さんは、柔道の構えを取った。
もう後には引けない。
前に加持さんが酒に酔った時、僕に絡んで話したことがある。
《男にはな、分が悪い時でも退いちゃいけない時があるんだ・・・負けると分かっていても、退かずに突き進まなきゃならん時があるんだ・・・よく覚えておくんだ。》
あの時は酒に酔った勢いだと僕は思った。 しかし今、実際に目の前に直面して、僕は加持さんの言った言葉の意味を理解した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
退くに引けない時・・・退いてはいけないこと・・・今がその時なんだと僕は思った。
僕の拳が、神無月さんの左頬を捉えたのは、その数秒後のことだった。
僕の拳をかわすことなくまともに食らった神無月さんは、そのまま床に吹っ飛んだ。
「神無月さん!」
柔道で幾たびも全国制覇を成し遂げた『猛者』の神無月さんが、まるで人形のように殴られた。
避けようと思えば、簡単に避けられたはずなのに・・・
「良いパンチだったぜ・・・シンジ君・・・」
口から流れ出る赤い血を拭って、神無月さんはにやりと笑った。
「宮仕えってのは、哀しいものでな・・・命令は絶対なんだ。」
そう、僕たちチルドレンとは違い、神無月さんは軍人なのだ。
神無月さんは、始めから僕に殴られるつもりでいたのだ。 そのことに僕はようやく気が付いた。
「しかし、男として君の気持ちも分かる・・・さぁ、行け。 これで俺も司令に言い訳ができる・・・」
上方では弐号機が苦しんでいるのか、のたうち回る音が間断なく聞こえてくる。
「ありがとうございますっ!!」
僕は手すりに手を掛けながらしゃがんでいる神無月さんに頭を下げてエントリープラグに乗り込んだ。
「ハッチ閉塞。 L.C.L注水! エントリー開始!」
エントリープラグが、初号機の奥深くに進入する音が聞こえ、血の臭いがするL.C.Lが徐々に水位を増してくる。
「A−10神経接続開始・・・」
その直後、アスカの悲鳴が再び聞こえてくる。
「僕が初号機で出ますっ!!」
僕は、浮かび上がったモニターに向かって叫んだ。 もう僕にはそれ以外に手だてはないと思っていた。
《初号機は凍結中だ。 許可できない。 それに、どうしてお前が其処にいる?》
その時返ってきた父さんの言葉は、僕の願いを完全に裏切るものだった。
だけど、そう返答してくる事は分かっていた。 初号機の中で母さんと話した時から。
《レイ・・・セントラル・ドグマに降りて、槍を使え・・・》
「父さん! お願いだよっ! もう止めようよっ!」
僕は父さんに向かって声を掛けた。
父さんがこの計画を、どういう意図で考えているのかなんて分からない。
しかし、そのために綾波やアスカを駒として使うこと自体がもう許せなかった。
「こんなことしたって、母さんは帰っては来ないよっ!!」
父さんの心は、本当は母さんだけにしか向いていないんだ。
《初号機、起動します!》
《L.C.Lの濃度を上げろっ!!》
僕が強引に初号機とコンタクトを取った瞬間、僕は全身が痺れるような感覚を覚えた。
そう、あれは少し前の事だ。
父さんが初号機に無理矢理ダミープラグを入れ、トウジと参号機を破壊した。
僕が「止めて!」とあれほど頼んだのに・・・
僕は、怒りに我を忘れ初号機を乗っ取った。
その時父さんが取った手段は、対話じゃなく排除だった。
L.C.Lの濃度を高められ、僕は気を失い、初号機から引きずり出された。
あの時と同じ感覚が僕の全身に甦ってくる。
《司令!》
《子供の駄々に付き合っている暇はない。早くしろっ!》
あの時と全く同じやり方だ。
だけど、僕は出来る限りその衝撃に耐えようと思った。
父さんのやり方は間違っている。 力で排除しようとすれば、必ず力での抵抗は起こる。
その事を父さんに教えてやりたかった。
父さんの言いなりになっている綾波のためにも・・・そして、現に苦しんで助けを求めているアスカのためにも・・・もう、僕は逃げない。
その時、僕は初号機の中で母さんの声を聞いた。
《行きなさい・・・シンジ。 子供は親を乗り越えて成長するものなのよ・・・》
L.C.Lが大きく沸き立ち、薄暗くノイズが走っていた映像が鮮明に輝き出した。
機体を拘束しているロックボルトを強制排除する初号機の腕が見えた。
初号機が自らの意志で動き出そうとしている。
《馬鹿な! この私を拒もうと言うのか・・・? ユイッ!!》
父さんが明らかに動揺している。 こんな父さんは初めて見た。
「シンクロ・スタート!!」
僕は初号機の機動レバーを握り締め、静かに念じた。
遠くから初号機の咆哮が聞こえてくる。 まるで初号機が暴走した時のように。
でも、今は初号機は完全に僕とシンクロしている。
僕の意志に従うように、初号機は発進口へと向かった。
《シンジ君! 第6発射口を用意したわっ!》
発令所でどんな会話が行われたのだろう・・・以来、父さんの声は聞こえず、代わりにミサトさんの声が聞こえてきた。
「状況を教えてください。」
《第三衛星軌道上から、遠距離攻撃よ。 使徒の名前は『アラエル』。 ATフィールドに似た可視波長のエネルギー光線を弐号機に照射しているわっ! シンジ君、アスカを助けてっ!》
ミサトさんの声が何時になく緊迫している。 アスカの忍耐力ももう限界を超えているのだろうか?
徐々に悲鳴が小さくなっていく。
「了解! 出ますっ!!」
僕は、地上に躍り出るなり、周囲の様子を見回した。
弐号機がパレットガンを抱えたまま、蹲っていた。
そこに浴びせられる白い光線は、まるで強力なスポットライトのように弐号機を照らし出していた。
その時、僕はアスカの声をはっきりと聞いた。
《・・・・・・助けて・・・・・・シンジ・・・・》
「アスカッ!!」
僕は、弐号機に突進した。 物理的なダメージを受けている様子はない。
だとすると、この使徒が得意とするのは精神攻撃だと理解した。
こんなことを冷静に把握する自分がいる・・・戦い慣れしている自分がそこにいる。
決して楽しい気分にはならない。 なるはずがない。
そんな思いを抱きながらも、僕は、初号機を弐号機と使徒の間に割り込ませ、弐号機を庇った。
《シンジ・・・・》
モニターに浮かぶその顔は、憔悴しきっていた。 どんなに辛い思いをしたのだろう?
「大丈夫か、アスカッ!?」
《・・・・・シンジ・・・・・わたし・・・わたし・・・覗かれちゃったよう・・・・》
消え入るような声が聞こえる。
アスカは、決して自分自身のことを口に出したりはしなかった。
だからアスカはエヴァのパイロットであり続けることに誰よりも拘っていた。
全てを自分自身で背負い込んで、全てを自分の力で乗り切ろうと考えて・・・
それは僕にも言えること。 みんなみんな一人で戦っている。
どうやって相手に頼って良いのか分からないから・・・自分だけの力で困難に立ち向かうことを望まれてきたから。
そんな中で、アスカは自分自身を見失っていた。 全てに自信を無くし、自暴自棄に陥りかけていた。
僕はアスカがどんな生い立ちを過ごしてきたのかは分からない。
それでも、決して幸せな少女時代でないことは、僕にも薄々分かっていた。
その時、アラエルの波長がアスカを庇う僕の心の中へと浸食を開始した。
遠くから聞こえる、ハレルヤの音楽。 その中で、僕の心はむき出しにされた。
孤独・・・・孤独・・・・孤独・・・・
先生の家に父さんと二人で出かけ、気が付いたらリニアの駅で置き去りにされた。
どんなに泣いても、どんなに父さんの名前を呼んでも、父さんは来てはくれなかった。
孤独・・・・孤独・・・・孤独・・・・
母さんの後ろ姿が見える。
僕は必死で追い掛けた。 立つことができない脚。
幼い僕は、必死に這い、母さんの足元に近づいた。
『マ・・・・マ・・・・・』
振り返った母さんの顔はのっぺらぼうだった。 目も鼻も口もないのっぺらぼうの顔。
孤独・・・・孤独・・・・孤独・・・・
砂場で多くの友達が遊んでいた。
僕は、その場に混ぜて貰って一緒に遊んだ。 砂の山を作り、トンネルを掘り、楽しく遊んだ。
やがて日は西に傾き、母親が友達を次々に迎えに来た。
一人減り、二人減り・・・やがて、最後の友達が、母親の手に引かれて砂場から居なくなったとき、僕は砂の山を壊した。
踏んづけ、蹴り上げ、砂を飛ばした。 誰も叱ったり喚いたりしなかった。
誰もいないから・・・僕以外誰もいないから・・・
孤独・・・・孤独・・・・孤独・・・・
その時僕は、遙か上空に光り輝く鳥のような物体を見た。
たった一人で荒野を彷徨うウサギのような僕に、その光の猛禽は、徐々に・・・確実に迫ってきた。
「それがどうしたっ!!!」
僕は沸き起こる子供の頃の思い出を拭い去るように叫んで、機動レバーを握りしめると、ATフィールドを全開にして抗った。
僕は、12番目の使徒、『レリエル』に飲み込まれたことがある。
そして、14番目の使徒『ゼルエル』との戦いで、初号機と融合したこともある。
その中で僕は、自分自身を突きつけられ、自分が如何に矮小な存在かを教えられた。
僕はいつも孤独だったのだ。
だけど今は違う!
僕には大切な仲間がいる。 苦楽と生死を共にした掛け替えのない仲間がいる。
綾波・・・そしてアスカ。
僕はもう一人じゃない。 寂しいなんて思わない。
だからもう何も失いたくない。 大切なものを守りたい!!
振り切れない大切なもの・・・それを守るために! そのために僕は強くなるんだ!!
父さんにも負けないくらいに強い男に。
「僕はサードチルドレン、碇シンジだっ!! 負けてたまるかよっ!!」
その時、初号機が僕の思いにシンクロするように、大きく咆吼を上げた。
繰り出したATフィールドが徐々に、可視光線を押し返していく。
そして、そのフィールドは一際大きく輝いたかと思うと、一気に上空を舞う『アラエル』に向かって伸びていく。
その瞬間、一本の槍が、僕の放つATフィールドとほぼ時を同じくして、『アラエル』を貫いた。
・・・・その後はどうなったのか覚えていない。
気が付けば僕は、病院のベッドに寝かされていた。 またも、見慣れた天井が僕の目の前に広がっていた。
ラジオ体操の音楽が流れる、真っ白な世界の中で僕は目を覚ました。
「またこの天井だ・・・」
何となく頭がくらくらする。 しかし、僕は今は自分の事よりも、仲間の方が気がかりだった。
そしてそれは、特定の一人に絞られていた。 そう・・・今の僕には何よりもアスカの事が気になって仕方がなかった。
無理にブランケットをはね除けて起きあがった時、ベッドサイドに腰掛けていた瞳が僕の方へと向いた。
「気が付いたのね・・・」
それは、綾波だった。 第一中学校の制服姿の彼女は、静かに読んでいた本を膝の上に下ろして僕を見つめた。
「綾波・・・・」
僕の姿を黙って見つめていた彼女は、やがて本を抱えて静かに椅子から立ち上がった。
「後は任せて・・・私の方で何とかするから・・・弐号機のパイロットをお願い・・・」
僕は一瞬、綾波が何を言っているのか分からなかった。 どうして僕にアスカの事を頼むのかが理解できなかった。
その時、綾波が少しだけ困ったような顔をすると、顎をしゃくって僕の隣のベッドを見るように促した。
僕の右隣のベッドには、アスカが横になって眠っていた。
「大丈夫・・・身体的なダメージは受けていないから・・・後はこの人の心の問題・・・」
そう言って、立ち去ろうとする綾波に向かって僕は声を掛けた。
「・・・何・・・?」
無表情のままの顔を向ける綾波に向かって、僕は静かに口を開いた。
これでまた、綾波に助けられた。 アラエルを仕留めたのも、綾波が操る零号機が槍を投げたお陰だったはずだ。
でなければ、僕は今、こうしてベッドで眠っているはずもなかった。
「また・・・助けられたね・・・ありがとう。」
素直にそう思った。 綾波に助けられたのは、これで2度目。
無口な綾波がそのことを僕に言うことはなかったけれど、実際の戦闘時も、何気ない訓練の時も、彼女は僕を見守っていた。
そのことに僕は感謝していた。 僕が今、こうしていられるのも綾波が見守っていてくれたから。
「何を言うの・・・」
綾波は、またしても逃げるように立ち去って行った。
綾波もまた、僕やアスカと同じように、心に壁を持ち他人が立ち入ってくることを許さない。
むしろ、僕たち以上に強力な心の壁がそびえ立っているように思えた。
いったいどうしてなのかは分からない。 いや、分かるはずがない。
その時の僕には気づかなかったが、彼女には重大な秘密が隠されていたのだから・・・父さんが綾波に宿した重大な秘密が。
綾波の姿はもう、この病室にはなく、僕は頭を掻きむしっていた。
もどかしい。 そう思った。
アスカとは、色々話し合うことができたというのに、綾波とはできないというもどかしさが、僕の心を支配した。
結局、母さんは綾波について何一つ教えてくれなかった。 いや・・・本当は知らないのかもしれない。
綾波レイという存在を、母さんは認識していないのかもしれない。
確かに、綾波は母さんじゃない・・・全く別の人格だ。
しかし、今までの僕がそうであったように、僕は綾波の中に、母さんの姿を投影していた。
その時、僕は一つの仮設を立てていた。 綾波は実は母さんの生まれ変わりではないかという仮設・・・
馬鹿じゃないのかと僕は思った。 本当に気が狂ったのではないかと思った。
振り払うように今の思いをかなぐり捨て、僕は隣のベッドで眠っているアスカへと向かい、傍らの椅子に腰掛けた。
最後まで脅威に立ち向かったアスカ・・・あの時味わった苦痛は如何ばかりだったのだろう?
もし、僕が・・・初号機と融合する前の僕が・・・あの光線をまともに浴びていたなら、僕は今のように正気であり続けられただろうか?
答えは『否』・・・僕の心はズタズタにされ、きっと人間として維持できない状態にまで追い込まれていたはずだ。
しかし、アスカは最後までアスカであろうとした。 悲鳴を上げ、泣き叫びながらも、アスカはアスカだった。
今は大きく広がっている紅茶色の長い髪。 軽く手に取ると、サラサラと僕の手から滑り落ちる髪。
「やっぱり、凄いよ・・・アスカは・・・」
尊敬の念すら覚えてくる。 今の僕にとって最も身近で、最も大事な他人。
その時、アスカの瞳がゆっくりと開いた。
「・・・・シンジ。」
ベッドに横なっていたアスカが僕の姿を見つめている。
「・・・気がついたんだね・・・良かった・・・」
「うん・・・」
アスカがゆっくりとベッドから起き上がり、僕の姿を見つめた。
静かな沈黙だけが、この何もない病室を支配する。 そのゆったりとした時の流れの中で、僕はアスカを見つめていた。
インターフェイスを外したストレートな髪型のアスカは新鮮だったせいもあって、僕は彼女の髪に触れたままだった。
そんな僕に気が付いて、アスカは少しだけ恥ずかしそうに俯いて見せた。
そこには誇り高いセカンドチルドレンとしてのアスカではなく、普通の女の子としてのアスカが居た。
「あっ、ごめん・・・つ、つい・・・」
僕はようやく気が付いて、アスカの髪から手を離した。
「ううん、平気・・・・」
首を軽く振って、アスカは僕の行動を許してくれた。
しかし、その表情は決して明るいものではなく、何かほっとしたような、そんな雰囲気を醸し出していた。
『アラエル』から受けた、精神波攻撃の影響が残っているせいだ。 それしか理由は思いつかない。
僕が初号機を発進させるまで、アスカはあの強大な敵に一人で立ち向かっていたのだ。
忘れたいと思っている記憶・・・拭い去りたい過去・・・それらを全て掘り起こすような攻撃に、アスカは耐えていた。
もし、僕がアスカの恋人なら、思いっきり抱きしめて撫でてあげたいと思う。
しかし、それはできなかった。 僕はアスカとキスをしたとは言え、恋人じゃない。
気持ちを伝え合うこと、そのことすら、まだしていないのだから・・・
「わたし・・・夢を見ていたわ・・・悪い夢。」
アスカが静かに口を開いた。
「凄く嫌な夢よ・・・自分が襲われて、何もかもがさらけ出されるような辛い夢だった。 でも・・・」
アスカは僕が差し出したコップを受け取り、一気に水を飲んで再び口を開いた。
「誰かが助けてくれた・・・悪い奴からわたしを守ってくれた・・・」
「そう・・・」
僕はそれ以上何も言わなかった。
きっと、さっきの戦闘の記憶と、気を失っていたアスカの夢が混濁しているせいだと思ったから。
もう心配はない。 もう暫くすれば、今までのような元気なアスカに戻ってくれるだろう。
僕は静かに椅子から立ち上がった。 僕も、もう少し眠りたい。
「待って・・・」
そうアスカの声が聞こえた直後、僕はアスカに腕を取られ、そのまま手繰り寄せられた。
「嬉しかったよ・・・シンジ・・・」
「アスカ・・・」
アスカの優しい感触が、僕の体に伝わってくる。
「少しでいいの、このままで・・・」
その言葉が・・・その温もりが・・・とても嬉しかった。 僕は一人なんかじゃない。
ここに僕を必要としてくれる人がいた。
僕はアスカの細い体に腕を回して抱きしめた。
Produced on Sep.4th '02
To be
continued
デニム「Tomyu.SさんからC-partをいただきました。ありがとうございます」(^^)
アスカ「…やっぱりアラエル戦ね」(^^;
デニム「最後は…良かったじゃないですか」(^^)
アスカ「シンジ、さらに格好良くなっちゃって…」
デニム「それにしても…さらに続きがあるようですね」
アスカ「…どうなるのかしら?」
デニム「これで一件落着でもいけるんですがねぇ」
アスカ「…もしかして、まだ難関があるの?」(^^;
Tomyu.Sさんの感想はこちらへお願いします。
tomyu.s@unsnerv.com
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