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Clay of Wishes (中編)
「ダメだってば。人形が学校にいけるわけないでしょっ!」
「え〜、なんで、なんで〜?」
雀も鳴きだす早朝。ひときわ高い声を出してるのは、碇シンジ。
ただいま14歳の中学二年生。突然母が作った等身大の人形が動き出して、
一緒に住むことになったのだが、どうもなつかれて(?)しまったらしい。
「なんでって、人形だからだよ。君が人形とばれたら大騒ぎじゃないかっ!」
「ど〜して?」
目の前の人形…アスカと名づけられた彼女を今朝から説得して、結構経つ。
無理だ無理だと言ってるのに、『一緒に学校に行く』と一点張り。
このままじゃ、僕がが学校に遅刻してしまうじゃないか。
「ついて来ないでよね、分かった?」
時間が押してるのもあって、最後にきつく言ってから
僕は家を出た。母さんもいることだし、何も追いかけてくることはないだろう…
と、思っていたのに、それは甘い考えだった。
「ねえ、ユイさん。学校に行ったらダメなの?」
シンジを送り出して(ついて行こうとしたが)から暫く経ったところ、
アスカはユイに聞いてみた。
「そうねぇ。アスカちゃんはシンジの学校の生徒さんじゃないから」
「ねえ、学校に行くようにするにはどうしたらいいの?」
「う〜ん。手続きがいるから、もし行きたいんだったら時間が少し掛かるかな?」
「え〜、つまんな〜い」
ぷんぷんと擬音が聞こえてきそうな顔をアスカは見せる。
「それじゃあ、代わりにお買い物に付き合ってくれる?
アスカちゃん、お洋服がそれしかないものね」
息子しかいないユイにとっては、たとえ人形であってもアスカは女の子。
新しい家族のために洋服の一つでも買ってあげたいのである。
「お買い物?やった〜」
「…ふふ、それじゃあ、先にお洗濯済ませるからね。
それまでその辺でごろごろしてていいわよ」
満足そうにはしゃぐアスカに笑顔を送り、
ユイは風呂場にある洗濯機に向かっていった。
「は〜い。分かりました〜………あれ?」
アスカはふと、テーブルの上に気になった。
その上に置いてあるものはお弁当だった。
「これ…たしか」
シンジが持っていったはず…なのだが、
アスカの学校に行くと言う無理なお願い(我侭?)
に気を取られてて忘れてしまったのだ。
「シンジ君…困ってるだろうな」
シンジ君に会いたい…と、思ってしまえば止まらない。
今朝、あれだけ「来るな」と言われたのもまさに「馬の耳に念仏」といったほうがいい。
「アスカちゃん。そろそろお買い物…あら?」
と、ユイが戻ってきてもすでに遅く、
アスカは弁当を持ってさっさと学校に向かって走り出していた。
「…ねぇ、ちょっとちょっと」
シンジの学校に着いたアスカは、
居場所を聞くために手っ取り早く近くにいた女子生徒に声をかけた。
「え、私?」
「うん。ねぇ、シンジ君知らない?」
「さぁ…でも、たぶんまだ教室にいると思うよ」
「そう?分かった…で、教室ってどっちなの?」
「…そこの階段を降りてすぐよ」
女子生徒が指差した方向に、たしかに階段が見える。
「ありがとう。じゃあねっ!」
ぶんぶんと手を振ってアスカは女子生徒に別れを告げて
階段を下りた…がっ!
どんがらがっしゃ〜んっ!!
「きゃ〜、何、なに、ナニ?なんなの〜?」
今立ち去ろうとした女子生徒も、
慌てて階段を見下ろした。
「だ、大丈夫?」
声をかけてみると、アスカは元気に返答した。
「あはは〜。こけちゃった。
ごめんねぇ、心配かけちゃって。でも、大丈夫だよ〜」
「と、とりあえず保健室いこ?
どこか、怪我してるかもしれないし…」
「怪我?私、しないよ。ほら、さっき腕をぶつけたけど…」
アスカは、すっと自分の右手を女子生徒に見せた。
「え…い、いや〜〜〜っ!!う、腕が、腕がと、ととと取れてる〜〜っ!!」
「…ほえ?」
「だ、誰か、誰か来て〜っ!」
突然、大声で叫ばれてもアスカにはその理由がまるっきりわからない。
真っ先に、上の階段から誰かが降りてきた。
「どないしたんや、洞木。そんな大声出してからに」
「おおかた、ゴキブリでも見たんじゃないのぉ?」
「す、鈴原…相田…君…そ、その子、ここ…て、手が…」
「…洞木。大丈夫か?声が震えてる…ぞ…」
女子生徒…洞木というらしい。彼女はここに来た二人に
訴えるようにアスカに指を指してきた。
「な…なんや、こいつ?」
「う…腕が取れてるぜ?」
男の子二人も、アスカを見て驚いていた。
「洞木、早く離れろっ!」
言われるまま、洞木は二人のほうに歩み寄る。
「洞木は、離れとき。…相田、捕まえるで。
こんな化け物、ほっとけるかいっ!」
「…噛み付いたりしないか?」
「あほぉっ!んなもん気にしてる場合かいっ!」
「ちょっと、私そういうつもりじゃ…」
「洞木は黙ってろっ!」
「…なに口喧嘩してるの?」
目の前で、三人が言い争いをしているのに、
当の本人はまるで事態を把握していない様子だった。
アスカの声に、はっと気付いた男二人は、改めてアスカに向き直った。
「…あれ?」
一方、アスカが探している人物は…
「おっかしいなぁ…アスカの声が聞こえたような…」
散々、来るなと言ってあるにも関わらず、
シンジはもしや…という不安が残っていた。
「…碇く〜んっ!」
「ん…洞木さん?」
後ろから、全力で走ってくるのは確かに
同じクラスの洞木ヒカリだった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どうしたの?そんなに慌てて…」
「はぁ、はぁ…碇君の知り合いの…女の子が…」
「え…アスカ…アスカが来てるんだな?
あれほど来るなって言ったのに…」
不安の的中したシンジはため息しか出ない。
「それどころじゃないのよっ!
鈴原や相田君に連れてかれちゃったの…
化け物って…言われて…」
すぐに状況に察しのついたシンジはヒカリに詰め寄った。
「なっ!…どこ?どこだよっ!」
「お、落ち着いて、碇君…」
シンジが必死でヒカリに案内された場所に向かうころ、
男の子二人に捕まってしまったアスカはというと…
「出して、出してよ〜。アタシ、シンジ君に用があるのに〜」
どん、どんと何度も倉庫の扉を叩いてみるが、
扉の先にいる二人は開けてくれそうもない。
「…なぁ、閉じ込めるだけでいいのか?」
「化け物でも…女やろ?なんかやりにくいやんか」
「ところでさ…なんで、碇に用があるんだ?」
「…知らん。とにかく、ここに閉じ込めておけば
問題ないやろ。もう行こうや」
「ああ…」
なおも出してと訴えるアスカを無視し、
二人はそのまま倉庫から離れていった。
「あ…トウジ、ケンスケっ!」
ちょうどその時、必死にアスカを探そうとしていた
シンジにばったりと出くわした。
「おう、碇…せや。倉庫に行ったらあかんで。
あんさんを狙ってる化け物がいるさかいに」
「…化け物?」
その単語に、ぴくりとシンジが反応した。
「せや。腕が取れて、血も出ないもんやから、
誰がどう見ても化け物やで…」
限界だった。次の瞬間、
シンジは行動を起こしていた。
「…このっ!」
パシィっ!
決して、痛々しい音でもなかった。
しかし、殴られた鈴原トウジは心底驚いていた。
「…碇が、殴った…?」
同じく、後ろで見ていた相田ケンスケも
呆然とその光景を目にしていた。
「…碇、なにするんや」
ようやく、口を開いたトウジはまだ信じられないといった目でシンジを見ている。
実際、碇シンジという人間が人に手を出した所を友人達は見たことがなかった。
それゆえ、今殴られた本人も、目撃した二人の友人も…固まったままになってしまったのだ。
「アスカは…アスカは…たしかに人間じゃないさ。
でもね、立派に人間の心を持ってるんだよっ!」
それだけ、吐き捨てるように言うとシンジは倉庫に走っていった。
「…鈴原、大丈夫?」
ヒカリが、トウジを気遣った。
「…ああ。でも…痛くないのに…痛かったなぁ」
トウジは、もう一度さっき殴られた頬を右手で触っていた。
「アスカ、無事なの?」
倉庫を開けて、アスカの姿を探す。
「…シンジ君?」
「…よかった、無事なんだね…アスカ?」
「シンジ君………アタシ、化け物…なのかな?」
心なしか、アスカの表情が暗いことに気がついた僕は…
その言葉を聞いて、自然と優しく微笑んだ。
「…そんなことないよ。ちょっと変わってるけどさ。
アスカは立派な女の子じゃないか」
「…うん」
そのまま、アスカはシンジに家まで送ってもらいました。
そして、その帰り道…
「…そういえばさ、なんで学校に来たの?」
「…はい、これ」
いまさらだけど、胸の中にしまっていたお弁当を
アタシはは取り出してシンジ君に手渡した。
「…ありがとう」
シンジ君の、その笑顔に…
アタシは少しずつ、胸のもやもやが
取れていくのを、暫くの間…感じていました…
アスカ「…鈴原、殺すっ!」
シンジ「あ、アスカ…殺人はダメだって」(汗)
アスカ「このアタシを化け物扱いしたのよ?そんなの許せますかって〜のっ!」
シンジ「で、でもさ、デニムさんだって鈴原に謝らせるつもりらしいよ?」
アスカ「謝らせるだけじゃ飽き足らないわ。ピー―でピー―でピー―してもらうわよっ!」
シンジ「わ〜〜、放送禁止用語〜」(×_×)
アスカ「というか、元凶であるデニムはどこ行った〜!!」
シンジ「ぎゃ〜…デニムさん、手がつけれないんでお願いだからなんとかして〜っ!」
(以下、アスカが暴れたせいでコメントを中断)
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