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Clay of Wishes (前編)
「よし、できたっと」
笑顔で仕上がった作品を見て、
女性は笑顔で汗を拭った。
「我ながら、傑作を作ったわねっ!」
叫んで、その作品を眺めた。
と、その時後ろのドアが開かれた。
「母さんっ!だいま〜」
元気良く工房に入ってきた、
学生服を来たその少年はまっすぐ女性の前にやってきた。
「あ、新作作ったの?最近調子がいいね」
「あ、シンジ?ええ。今度の個展に出すつもりよ。でもね…」
すっと立ち上がり、シンジと呼んだ少年の近くまで歩み寄って…
突然頭をぐりぐりし始めた。
「い、痛い、痛いよ、母さんっ!」
「煩いっ!何回工房に入っちゃダメだって言ったのよ!
いいかげん息子なら覚えなさいよね、作品が壊れたらどうするのよっ!」
「うわ、うわっ!分かった、分かったから。
その粘土のついた手で頭を触らないで〜」
子供も必死だが、状況が状況だけに親も必死。
陶器は作る段階では一度潰されれば二度と同じのは作れないのである。
「まったく…」
頭に怒りのマークをくっつけたままそっぽを向いて、
ようやく手を頭から離してくれた。
「とほほ…今日は念入りに頭を洗わないと…」
ある町に住む、一風変なこの親子。
母親は碇ユイ。陶芸家で、自分の作品の陶器を
自分の店で売って、一人息子のシンジと生活している。
そして、今度の作品の完成が…この物語の始まり。
「あれ…これ、女の子?」
さきほど、母親のユイが作った作品を見る。
「ええ…ほら、シンジが妹が欲しいって昔言ってたでしょ?
でも、もう産めない体だし…いっそってことで粘土で作ったのよ」
「そうなんだ…でも、妹っていうよりは…」
出来たその粘土を再度見てみる。
長い髪。綺麗な目。すらりとした体つき。
シンジと変わらぬ身長。
「あ、そうか。背丈もシンジに合わせて作ったから…
まあ、作っちゃったものはしょうがないじゃない」
「あのね…そういえばさ」
「…うん?」
「名前、ないの?」
「あ、そうか…じゃあ、『アスカ』ってのはどう?」
「アスカ…かぁ。可愛い名前…
本当に人間の女の子だったらいいのにね」
実際、人間だったらこの粘土はどんなに綺麗だろうか。
それほど、いい出来だった。
「…まあ、シンジったら」
ユイも思わず笑う。
「…さあ、夕飯にしましょうか。
あの人もお腹空いてるでしょうから」
「うん、父さんを待たすと怖いからね」
「そうね」
お互い、笑顔を返す。
「…あれ?」
「どうしたの?」
「今…工房から声がしたような…」
「空耳でしょ?ずっと私一人だったし」
「…そうかなぁ」
腑に落ちないまま、シンジはユイと一緒に工房を後にした。
『…人間だったらいいのにね』
さっきシンジが言った言葉が、また工房から帰ってきたことも気付かずに…
次の日の朝の出来事です。
いつもなら普通に母親が起こしてくれて、
服を持ってきてくれて、
「起きなさい、シンジ」
その一言で目を覚ます…はずでした。
「起きてよ、シンジ君」
「………んん?」
どうもその声に疑問を感じた。
母さんの声とは少し違った感じがする。
少し目を擦ったあと、僕は起こしてくれた人を凝視した。
「あ、起きた?おはよう、シンジ君っ!」
元気良く挨拶する女の子…だった。
しかも…
「…君は………アスカ?」
「うん。そうだよっ!」
「…ダメだ。早く起きないと遅刻する」
ありえない。『アスカ』は粘土であって人間じゃないはずだ。
シンジはそう思いながら布団を被りなおす。
「あ、ちょっと〜。起きてよ、ねぇっ!!」
ゆさゆさ、ゆさゆさ、ゆさゆさ…
ゆさゆさ、ゆさゆさ、ゆさゆさ…
「ああ、分かったよ。起きるよっ!」
流石に鬱陶しくなってその手を払いのけながらシンジは起きた。
「まったく。今日はやけに寝起きがわ…」
起きて、目の前の少女の手を見る。
ない、ない、ない。手がない…!?
手首がないっ!!しかも折れたわけでも千切れたわけでもなく
元からなかったようにその手首から先がなかった。
「あ〜、酷いよ、シンジ君。アタシ粘土なんだから脆いのに〜」
「…ぎゃ〜〜〜〜っ!!!」
思わず飛び起きた。その勢いでごろごろと転がった僕は
壁に頭をぶつけた。しかも夢の中なのに痛みが走る。
「…いった〜」
「…大丈夫?」
と、不意にほのかな香りが僕の鼻を擽った。
「…うん、たんこぶは出来てないみたい」
「シンジっ!!一体どうしたの?」
バンッと扉が開かれて疾風のごとく部屋に入ってきたのは母さんだった。
「……シンジっ!貴方何やってるのっ!」
「…へ?」
ふと見れば、目の前の彼女は前から僕を抱くようにして肩越しに頭を見ていた。
「シンジ…まさか貴方…」
「ご、ごごごご誤解だよ、僕、何もしてないったらっ!」
シンジは慌てて彼女を引き剥がしてぶんぶんと両手を振る。
「何言ってるのっ!他所様の女の子連れて来て。
しかも部屋に連れ込ん…で…?」
と、母さんも目の前の少女にふと見覚えがある顔をした。
「…貴方、アスカ…ちゃん?」
ユイは少し震える指を少女に向ける。
「はいっ!…あ、アタシを作ってくれた人ですね?
どうも本当にありがとうございました」
彼女…『アスカ』はぺこりとお辞儀をして元気な顔を見せた。
「…シンジ、これどういうこと?」
「…僕が聞きたいよ」
「…??」
状況が把握出来ずに固まる者が二人。
その二人の反応に頭にクエスチョンマークをつけた者が一人。
暫くの間その場にはその光景が続いていた。
「…で、どうして君は粘土なのに生きてるの?」
僕と母さんは意識を取り戻してから、
やっとこの現状が夢でないことを理解した。
とりあえず彼女…アスカを居間に案内している。
「それはね…シンジ君のおかげだよ」
「へ…なんで僕が?」
自分が何をしたんだろうか…
少なくとも作ったのは母さんだし…
「シンジ君が言ってくれたでしょ?『本当に人間だったらいいのにね』って」
「えっ!?」
「それでね、シンジ君の言葉を聞いて、人間になれたらいいなって、
ずっとずっと思ってたの…そしたら、なぜか知らないけど人間になってたの♪」
「「…それだけ?」」
おもわず、母さんと声が重なる。
「うん、それだけ♪だから、シンジ君のおかげなんだよ」
「…独り言のつもりだったんだけどな」
ぽりぽりと頬を指で掻いてしまう。
それっぽっちのことで『僕のおかげ』って言われてもなぁ…
「あら、別にいいじゃない。こんな素敵な奇跡だったら、
母さん嬉しいわ。まるで本当に娘ができたみたいで」
「で…どうするの?」
「決まってるじゃない。ここに住ますのよ」
「ええ〜?部屋はどうするのさ?」
「私の部屋でいいでしょ?問題ないし。
それともシンジは嫌なの?」
「いや…その…」
ちらりとアスカを見る。
彼女は一部始終ずっと笑顔でこちらを見ている。
「…嫌って訳じゃないけどさ」
「じゃあ、決まりね」
「それはいいけどさ…後は、父さんか」
「あら、そういえばそうねぇ。それじゃ、
あの人の返事を待って、アスカちゃんを正式に
この家に住ませることにするわね」
最後の関門であり、最強の家の主。
なにせあの父さんじゃあなぁ…
はぁ。どうせ却下されるよ…
「うむ、問題ない。私はいっこうに構わんぞ」
一秒で承諾を得てしまっていた…
「息子より、娘のほうが可愛いからな」
「…酷いよ、父さん」
泣く泣く僕を尻目に、当のアスカは母さんと父さんと仲良く話をしている。
とにかく、一風変わった粘土の少女がこの家に住むことになった。
「そうだ。明日、シンジ君の学校に行ってもいい?」
「それはダメだってっ!」
僕は、この先苦労する…ような気がした。
シンジ「あ、アスカがついに人間じゃなくなってしまった…」
アスカ「しかも…粘土?これってSS界初じゃないの?」
シンジ「いや〜、デニムさん、こんなネタ良く考えつきましたね…あれ?」
デニム「……………」
シンジ「…どうしたのかな?」
アスカ「なんか、落ち込んでるわね」
レイ 「…実は、すでにネタがあったらしいのよ」
アスカ「ええ?ど、どうして?」
レイ 「このSSの下書きが終わりかけた時、立ち寄った本屋に似たような作品があったそうよ」
シンジ「…本屋?」
レイ 「素人じゃなくてプロが書いたもの…しかも二年前」
アスカ「あちゃ〜…そりゃディラックの海に落ちるがごとしね」
シンジ「どれどれ…うわぁ、こりゃ運が悪いなぁ。本当にそっくり」
アスカ「…あ〜あ、しかも終わり方まで同じじゃん」
デニム「……………」
レイ 「…追い討ちをかけてどうするのよ」
シンジ・アスカ「…………」(^^;
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namiko-w@axel.ocn.ne.jp
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