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アタシは男運が悪い。いましがたも、
「惣流先輩!」
声をかけてきたのは一年生でも指折りの美少年。
「なに?」
「惣流先輩、僕は貴女を一目見たときに、好きになってしまいました」
「えっ!?」
真剣な瞳を向ける彼。真面目で優秀の誉れ高い彼が、アタシに恋をしてしまったらしい。多少役不足なところもあるけど、とりあえずはキープしておいても損はないわね。
「でも、貴女は学園一のアイドル。僕には手の届かないと諦めました」
「へっ?」
「でも、この気持ちにケリを付けたくて、せめて伝えるだけはしておこうと。じゃっ」
「ちょっ、ちょっと……」
そう言い残して彼は走っていってしまう。その先には彼女らしい可愛らしい女の娘が待って、そして、彼らは仲むつまじく寄り添いながらアタシの視界から消えて行く………
優しい悪魔
西暦弐阡壱年睦月壱拾日
走易上 著
「だぁぁぁぁぁ、どうしてアタシに言い寄ってくる男どもは、こんなのばっかなの!」
「あ、アスカ、落ち着いてよ」
「まぁ、しゃ〜ないじゃん。いつものことなんだしさ〜」
帰宅途中、さっきの出来事を親友にでも話して鬱憤を晴らさずにはいられないわ、まったく。しかし、一生懸命アタシをなだめようとしているヒカリに対し、無責任なことを言い放つレイ。こうも性格が違う二人の人間を、どうしてアタシは親友にできたのかしら?
「ちょっと、レイ!いつもの事ってどういうことよっ!!」
「だって、アスカにコクってくる奴って、み〜んな諦めてからじゃん」
「ぐっ」
そ、そのとおり。ある程度まともな男どもは、みんな諦めてからアタシに告白をしにくる。悔しいが言い返せない。
「そ、そういえば、こないだは諦めてなかったんでしょ」
……ヒカリ、助け舟を出してくれるのは嬉しいけど、あれは思い出しただけで身の毛がよだつのよね。
「ヒカリっ!やめてよね、あんな身のほど知らずの奴!!」
「そうね。根暗でオタクな奴だったわね。身のほど知らずも良いところって奴だけど、アスカ」
「なによ」
「彼氏いない暦も18年と長いんだし、あれで我慢すれば良かったんじゃない?」
「なっ、好き放題言わないでよ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ、レイっ!!」
言うが早いか、レイは既にダッシュで逃げ始めていた。もちろん、アタシがそんなの許すわけないでしょ。レイを追いかけてひっ捕まえて、小突き回した上に餡蜜を二杯で手を打ってやったわ。
財布が軽くなったと泣いていたレイ達とわかれて自宅に戻ったアタシだったが、やっぱ、そうそう気持ちは晴れるもんじゃないわね。
「お帰りなさい、アスカちゃん」
「ただいま〜、ママ」
「そうそう、いつもの、貴女の部屋においといたわ」
「そう、ありがとっ」
そっか、今日はあれの発売日だっけ。あの雑誌に連載されている、キューピット占い。信じてるわけじゃないんだけど、やっぱ気になるじゃない。とるものもとりあえず、それだけはさっさと読んじゃいましょ。え〜と、目的のページは……、あったあった。それで、アタシの該当する欄は………
−今月、貴女にとって最高の彼が現れるでしょう−
その雑誌を壁に叩きつけるアタシ。だって、そうでしょう。ついさっき、いつもと同じようなめにあってきたばっかなんだから。凄く馬鹿にされた感じ。もう、キューピットなんて絶対信じないっ!
不覚にも涙がこぼれるアタシのその目に入ったものは、雑誌からこぼれおちた付録の小冊子の表紙、
−悪魔にお願いする方法−
そう、神も仏もアタシを見放してるけど、悪魔ならアタシの願いをかなえてくれるかもしれない。そう、悪魔なら……
次の日の放課後、アタシは調理実習室でその本に書かれていたことを試してみる。
「え〜と、マンドレイクの根っこ?……そんなものあるわけないじゃない。ふんふん、なければにんじんのみじん切りでOKなんだ」
「トカゲの尻尾に、カエルの目玉……。そんなものさわるのもイヤ。とりあえずゴム人形で代用!」
「これを油でさっといため、塩コショウをする」
「隠し味に処女の血大さじ3杯……………、トマトケチャップでいいよね」
「これをチョークで描いた魔方陣の中央において……」
「なになに、本来なら13日の金曜日が望ましい?そんなの知ったこっちゃないわ」
「で、呪文を唱えるわけね。『偉大なるサタンよ、悪魔を統べる王よ。我が願いをかなえし悪魔を我が前にあらわさん』……って、これで良いのよね」
………何も起きないじゃない。やっぱ、悪魔なんて居るわけないのよね。そう思った瞬間、
「きゃっ」
モクモクと目の前の魔方陣から煙が上がって、ボムッという音とともにアタシの前に何かが現れた。
「毎度ご利用ありがとうございます。魔界魂銀行日本支店平悪魔・碇シンジと申します。お呼びにより参上しました」
「……………」
「あれっ?台詞間違えたかな?」
変なカラスみたいな顔つきに、角や羽が生えている虫みたいな奴を想像してたけど、目の前に居るのは普通の人間の男性のよう。でも、禍禍しい角と羽がある。ちょっと情けないけど、やっぱりコイツって……
「アンタ、本当に悪魔なの?悪魔なのよね……」
そんなアタシの問いかけに、コイツは優しそうな笑みを浮かべて、
「そうですよ、お嬢さん」
そう、答える。やった〜!!悪魔を呼び出せたのね、アタシ。
「さあ、何なりと願いを一つ、申してください。それで契約が成立いたします」
願いが……、これで、アタシの長年の不幸が挽回されるのよ。
「お、男が欲しい!」
「……………」
コイツ、ひいてるわね。わかってんのかしら?
「いい、私に見合った最高の彼氏が欲しいの、わかった?」
そう、才色兼備、文武両道、学園一のアイドルとして高嶺の花とされるアタシだって、普通の女の娘なんだから、素敵な彼氏が欲しいと思うのだって当たり前。女の娘なら誰だってそう思ってるはずよ。だけど、いままでそんなアタシに毎回同じ出来事の繰り返し。この世に神も仏も、恋のキューピットだっていやしないわ。だから悪魔に願ってもいいじゃない。
「まぁ、いいんだけどさ。悪魔呼び出しておいて、そんな願いって始めてなんだよね」
「うっさいわね。アタシにとっては人類補完計画よりも重要なことなんだからっ!」
「なにそれ?」
「知らないわよ、電波なんだから」
「?……まぁいいや。とにかくパッと終わらせちゃおう。さて、取り出だしたりますこの一匹のカエル」
「ゲッ」
そういうと、シンジはまるで手品のように一匹のカエルを手の上に出す。
「あらら、不思議。僕の魔法でハンサムに大変身」
ポムッという音とともに、シンジの手のひらの上に居たカエルはアイドル顔負けの超美男子に変身する。………でも、手のひらサイズ。
「……手のひらサイズの彼氏作ってどうすんのよっ!」
「わがままだなぁ」
「我侭もくそもあるかっ!だいたい、カエルとどうやって文化交流を深めろっていうの?」
「あっ、そうか」
こ、コイツは………
「ここらでド〜ンと恋の矢かなんかで、私に見合ったハンサムを私に惚れさせるとか……」
「僕は悪魔であって、キューピットじゃないよ」
………そうだったわね。だけどさぁ、
「……っていうか、あんまり高等な魔法が使えないとか?」
「グッ……」
「やっぱりそうなんだ」
「仕方ないじゃないか。だいたいケチャップで呼び出しておいて文句言わないでよ。エリートを呼び出したかったら、捧げ物を全て本物にしなくっちゃ」
アハハ……、やっぱ、あれで呼び出せたほうが奇跡に近いか。ここは、女の武器を使って……
「ひ、酷いわ。神や仏に見放されて、最後の頼みの綱だった悪魔までもアタシを見捨てるのね、シクシク」
「ご、ゴメン、そういうつもりじゃないんだ」
へぇ〜、悪魔にも泣き落としって通用するモンなのね。
「僕にとって久々のお客なんだから、最後まで責任持つよ」
「えっ?」
シンジは私に向かって手をかざすと何かの呪文を唱えた。アタシは煙に包まれたあと、着ていた洋服が変わったみたい。今まで着たことのない、すごく大人っぽい服装。
「ね、ねぇ、これ、大人っぽ過ぎると思わない?」
「仕上げは、このルージュで……」
こ、コイツ、聞いてない。
「ほら、こっち向いて」
「えっ?」
「ちょっと、じっとしててね」
アタシのあごをそっとおさえて、少し顔を上げさせる。そして、アタシの唇にルージュを引く。
「ねぇ、唇かたくしないほうがいいよ」
そ、そんなこと言われたって、男の人に口紅つけてもらったことないんだから……
「よしっ、できたっと」
「……」
「う〜ん」
ど、どうしたっていうのよ?
「君って、とても綺麗だと思うよ」
………爽やかな顔してさらっと爆弾発言しないでよ、まったく。
「これで、街を歩けば、みんな言い寄ってくるねっ」
こ、コイツは………、
「まっ、頑張ってね。応援してるから」
「ちょ、ちょっと……」
そう言うと、アイツはさっさと飛んでいってしまう。まったく、責任持つとか言っておいて、無責任じゃないのよ。アタシは誰だっていいなんて言ってないじゃない。なんか、これから予想がつくような……
「よぉ、ネェちゃん、色っぽいネェ」
道路工事の親父どもから声がかかる。もちろん無視。
「お嬢さん、まるでアニメの世界から出てきたお姫様のようだ……」
メガネをかけて小太り中背、服のセンスまるでなしのオタク君。もちろん無視。
さっきから視線は感じるんだけど、まともな奴は誰も声をかけてくれない。かけてくれるのはいっちゃってる奴ばっか。なんでよ、まったく。そうよ、これもアイツのせいだわ。
「そこの美しいお嬢さん」
「はい?」
ちょっとはまともな声のかけ方ね。
「うちの事務所で茶でもしばいていかんか」
…………………………。
一人はグラサンかけて頬には傷、もう一人はごっつい感じの丸刈りのオヤジ。そして、関西弁。思いっきり丸暴関係者じゃない。男二人、それもそっち関係の人にいくらアタシでもかなうわけないじゃない。そのまま二人に手を引かれていくアタシ………
「ほら、ここの4階だよ」
「いえ、その……」
「いまさら、イヤとはいわへんよな」
ドスの利いた声で私をにらむ男。イヤァァァ、絶体絶命!!
ガシャン!
階段の踊り場のガラスが割れて何かが飛びこんでくる。あれって、
「シンジっ!」
「大丈夫?」
「何や、ワレっ!変な格好しくされおって」
「すいません、彼女は僕のお得意様なんです。離してもらえませんか?」
「なんやと。わけのわからんことぬかしおって、いねやっ!」
「きゃぁぁぁ」
男二人がアイツに踊りかかって行く。でも……
「ぐはぁぁ」
「ば、化け物か、てめぇ」
な〜んか、あっけなく片付いちゃったなぁ。
「化け物じゃなくて、悪魔です」
「………結構強いのね、アンタ」
「悪魔の中じゃ落ちこぼれでも、人間には負けはしないよ」
ふ〜ん、やっぱりコイツもいっぱしの悪魔なんだ。
「じゃぁ、行こうか?」
「行くって?」
シンジはアタシを抱きかかえると、窓から飛び出す。
「ちょ、ちょっと、ここ3階よぉぉぉぉぉぉ」
「落ちないから大丈夫だよ」
「そう言う意味じゃな〜い!!」
「まぁまぁ」
「うぅ〜、このバカシンジ!鬼!悪魔!すっごく怖かったんだから。みんなアンタのせいよ」
なんか安心したら、悪態の一つもつきたくなるわ、まったく。
「はいはい、僕は悪魔ですよ。でも、もう大丈夫だから、安心して」
「………」
「どうしたの?寒いかな?」
「……大丈夫」
いまのコイツ、なんか妙に頼れる……
とあるビルの上でホットの缶コーヒーを飲むアタシ達。
「しかし、やっぱ、あの服装が悪かったのかな?」
「まぁね、高校生らしくないもん」
「じゃぁ、これでどうかな?」
そういうとまた私に魔法をかける。清楚なお嬢様って感じの服装になるけど……
「いやよ、こんなの。アタシには似合わないわよ」
「そんなことないよ。君にはなんでも似合ってるよ」
だ、だから、爽やかな顔で爆弾発言をするな。コイツはやっぱり心臓に悪い。
「これで、振り向かない男って信じらんないよ」
…………
「アタシってさぁ、男運が悪いのよね。もてないわけじゃなくて、いつもタイミングが悪いだけなのよ」
「……」
「素敵な人はすぐ離れて行っちゃうし、寄り付くのはバカばっか」
なんか、ものすごく悲しい。アタシってどうしてこうなの?涙が出てきちゃうわ。
「だから、もう泣かないで。僕が必ず何とかするから」
シンジは私の肩を掴んでそう言う。顔が近づきすぎて、コイツの真剣な表情が目の前になる。
「あぁ、ご、ゴメン」
慌てて手を離すコイツ。アハハ、可愛いとこもあるわね。
「なんか、癖になっちゃいそう」
「なにが?」
「悪魔を呼び出すこと」
「へっ?」
「だって、悪魔がこんなに優しいとは思わなかったもん」
「あ、あのさぁ、悪魔を呼び出せるのは一生に一度きりだよ」
「なんで?」
「なんでって、悪魔を呼び出す為には報酬に魂を……」
「なぁに?」
「き、君……、何も知らないで悪魔を呼び出したの?」
何も知れない?どう言うことなの?
「ダメだっ!悪いけど、この話し無かったことにして欲しい!!」
「し、シンジ?」
シンジが怒ってる?どうして?いままであんなに優しかったのに。
「じゃぁ、僕はこれで」
「ひ、酷いわ。責任もつって言ったくせに……」
「泣いてもダメだよ」
!!……泣き落としもきかない。コイツ、本気だ。
「シンジっ!」
思わずシンジに飛びつくアタシ。
「ねぇ、アタシなんか変なこと言った?悪かったわ。謝るから、いかないでシンジ!」
「あ、謝らないで。……いい、僕は悪魔なんだ。悪魔はその願いの代償に、人間の魂を……」
シンジがそう言いかけた時、
「いい加減にしろ、シンジ」
暗雲が立ち込め、雷が鳴り響き、そして、サングラスをした髭面の威圧感がある男の顔が現れる。もちろん、そこには禍禍しい角が生えている。
「いいか、シンジ。そんなことだから落ちこぼれと言われるのだ。久々の上玉だ。必ずその娘の魂を持ち帰れ」
「しかし、支店長、この娘は……」
「さもなくば厳罰処分だ」
「と、父さん!」
髭面の男はそう言うと消えてなくなる。
「幻?い、いまのは?」
「魔界魂銀行日本支店長、最上位悪魔にして僕の父親。僕を監視していたみたいだ」
「た、魂って、私の……?シンジ」
「………。悪魔っていうのは、人の魂を奪うのが仕事なんだ。ボランティアで願いを叶えるほど、生易しくはないんだ」
「それじゃ……」
シンジは無言で私の頬に手を添えてじっと見詰めている。
「君は綺麗だ。悪魔の力なんて借りなくても、充分いい人が見つかるよ」
「な、何よ、別れのことばみたいな……」
「さよなら」
アタシが言い終える前に、アイツはそういって消えてしまった。
「シンジぃぃぃぃぃ!!!」
アタシの叫びは空しく響くだけだった。
涙が止まらない。アイツは私の願いは叶えてくれなかった。その代わりにあたしの魂を持って行かなかった、優しい悪魔。魂は持っていかれなかったけど………
翌日、気が抜けたまま学校へ行く。
「あっ、アスカだ!」
「おはよう、アスカ」
「ああ、おはようレイ、ヒカリ」
「ところでさぁ、アスカ?」
「何よ」
「ビルの屋上に取り残されて何やってたのよ?」
「な、なんでアンタがそんなことしってんのよ」
「いいじゃない、そんなこと。それよりさっ」
「ま、まぁ、着せ替えして、街歩いて、空飛んで、ビルの上でコーヒー飲んで……」
「……か、変わったデートねぇ」
「あ、綾波さん、言いすぎよ」
デート?あれもデートって言えるのかしら?でも……
「惣流さ〜ん。お客さん」
クラスメートがアタシを呼ぶ声がした。
「あ、あれって、隣のクラスの緒方君じゃん。文武両道、才色兼備、アスカを女子No.1とすりゃ、男子No.1の噂の彼」
「そうなんだ。でも、彼、一年のころはアスカと一緒のクラスだったわよ」
「へぇ〜、もしかするともしかするわね。でも、いつものパターンじゃない?」
「あ、綾波さん!そういう言い方しなくてもいいじゃない」
「まっ、頑張っておいで、アスカ」
「……」
いまのアタシには、他のことが気になっている。
「なに?」
「あっ、え〜と、オレのこと覚えてるかな?一年のとき一緒だった……」
「……」
「今日さ、仲間内でで新年会もどきのコンペすることになっててさ、良かったら一緒にどうかなって……」
「……」
「それで、できたらその、オレの彼女って事でさぁ………」
アイツは言っていた。アタシにもいい人はできるって。でも……
「えっ?そ、惣流さん?」
「「あ、アスカ?」」
アタシは泣いていた、アイツのことを思い出して。アイツはアタシの魂を持って行かなかったけれど、その代わりに大事なものを持って行ってしまった。いまの、アタシの望みはただ一つ。
「偉大なるサタンよ、悪魔を統べる王よ。我が願いをかなえし悪魔を我が前にあらわさん」
前と同じようにモクモクと目の前の魔方陣から煙が上がって、ボムッという音ととともにシンジが現れる。
「ま、毎度ご利用あり……」
「シンジ〜!会いたかったっ」
「えっ、ええ!!」
アタシは迷わずシンジの胸の中に飛び込む。
「き、君はまたしょうこりもなく……」
シンジの顔は青あざがいくつもできていた。
「どうしたのよ、その怪我。そっか、アタシの魂を持って帰らなかったから……」
「ち、違うよ、まったく関係ないよ」
「でも、もう大丈夫、シンジ」
「?」
「若くてピチピチした魂をあげるから」
「そ、それって……」
「アタシはアンタが好き!だから、アンタもアタシを好きになって。アタシの望みはただ一つ……」
「!!」
「アタシの彼氏になって」
「だ、だけど、僕がOKしたら、君が死んでしまうんだよ。わかってるの?」
「お願い、ふっちゃわないで。たった一つの、そして、最後のお願いなんだから」
「……!!」
目頭が熱い。止めどもなく熱いものが溢れてくる。アタシは黙ってシンジの胸の中に顔をうずめる。多分酷い顔。でも、そんなこと気にしていられない。だって、アタシにとって最後の時、そして、最高の幸せを手に入れるためなのだから。
シンジは黙ってアタシのことを抱きしめてくれた。コイツらしくなく、とても力強い抱擁だった。苦しいかもしれない。でも、それも気持ちが良かった。だけど、神様。いままで、アタシは貴方のことを信じていませんでした。でも、彼が、シンジが人間だったら良かったのに。そう思わずにいられません。
「僕が、人間だったら、ずっといっしょに居られたのに」
シンジも、アタシと同じ思いでいてくれたんだ。なんかとっても嬉しい。シンジはそっとアタシの唇に自分の唇を重ねてくる。人から見ればバカな女と思われるかもしれない。でも、自分の恋に命をかけられる人が何人いるのっていうの?そういう恋をして何が悪いっていうのよ。ただ悲しいことは、アタシが今の幸せを味わえる時間はとても少ない………
「ねぇ、いつ、アタシの魂を持っていくの?」
「今はよそうよ、その話は。せっかく思いが通じ合ったんだから、ゆっくりと話しでもしようよ」
「うん」
「じゃぁ、空の散歩にでも」
そう言うと彼はアタシを抱きかかえると、飛び立とうとしたが………
「あれ?飛べない?」
「し、シンジ?」
「あ、あれっ?角もなければ、羽もなくなっちゃったよ」
「へっ?」
か、肝心なとこれで、コイツは……。でも、それって………。そんなアタシ達の上に一枚の紙が舞い降りてきた。
「シンジ、なんて書いてあるの?」
そこには、
帰ってくるな ゲンドウ
孫ができたら見に行くわね ユイ
そう書かれていた。
「し、シンジ、これって……」
「……これ、父さんと母さんかららしい。どうやら、魔界に帰れなくなっちゃったらしい」
「……って言うことは?」
「君の魂を持って行けなくなったし、ずっと君のそばに居れるってことかな?」
「シンジっ!」
「うわっ」
涙を流す時は、いつも辛い時ばっかだったけど、今、嬉しい時にも涙は流れることを実感しましたわ。
ありがとうっ!神様
あとがき……………っていうか、お詫び
はぁ、やっと書き終えた。
勢いに乗れないとかけない私。逆に、乗れると結構早くできるのですが。とはいえ、拙速という文字がついてまわっていますね。昨年末(前世紀末と言った方がイイですかねぇ)に開設のお知らせを受けてから、新年は明けてしまうわ、新世紀を迎えてしまうわ(……って当たり前か)で、なんとも遅くなりましたが、よければ開設記念(遅くなったので銘は打てませんが、シクシク)のひとつとして受け取ってやってください。
若葉マークの感想書きが、身の程を知らずに創った拙作です。Lone
Some Hope Island の愛読者の皆さん、寛大な心で石を投げつけるのを抑えてやって下さい。しばらくは感想書きに戻って修行してきますので。
ではでは。
デニム「走是上さんに投稿して貰いました。ありがとうございます」
シンジ「ぼ、僕が悪魔ですか?」
デニム「そうですねぇ。とても悪魔に見えませんね、タイトル通り優しいし」
シンジ「…そのせいで階級低いんだろうなぁ」
デニム「たしかにそうかもしれませんね」
シンジ「でも、最後は人間になりましたね」
デニム「そうなったのはいいですが…これから辛いですよ」
シンジ「ええ、わかってます。でもアスカといっしょに頑張りますよ」
デニム「そうですか…あ、アスカが呼んでますよ」
シンジ「え…あ、ほんとだ。それじゃ、デニムさん。僕はこれで」
デニム「はいはい…それでは、私は部屋に戻りましょうか。それでは皆さん、また次の機会に」
走是上さんの感想はこちらへお願いします。
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