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秘めた思い
(プロローグ)
暑く火照り上がったアスファルト。
風によどめく木々の音。
高く五月蝿く鳴き叫ぶ蝉の声。
汗をかきながら苦しそうな顔で時々通る人々。
その路地裏では気の弱そうな高校生ぐらいの男の子が3人の兄ちゃんに囲まれていた。
「おいおい。その子をこっちに渡せって言ってるだろーがよー?」
男の子から見て、右側の大人し目な兄ちゃんが高校生に軽く声を投げつける。
よく見ると高校生の後には小学生低学年ぐらいの男の子が泣きそうな顔で足にしがみついていた。
「とっととそのガキ渡さねーとおめーもブン殴るぞこらぁ!!」
代わって左側のいかにも喧嘩っ早そうな兄ちゃんが、今にも襲い掛かってきそうな勢いで高校生に言葉をまくしたてる。
「嫌です。この子に怪我をさせそうな人に絶対に渡せません」
高校生が絶対な拒否を秘めた言葉を返す。
「んだと?このガキ!!」
「やめろ」
左側の兄ちゃんが襲い掛かろうとした瞬間に、真中の1番まともそうな兄ちゃんが制止した。
「ちっ!」
舌打ちを鳴らしたが、もう襲い掛かろうとしない所を見ると真中の兄ちゃんには逆らえないんだろう。
「こいつはスグ怒るんでね。まぁ気にすんなよ」
右側の兄ちゃんの言葉が軽く場の緊張感と高校生の拒否の意思をほぐす。
この兄ちゃん達はどうやらそこいらのチンピラではないようだ。
「どうしても渡す気にならないんだな?」
真中の兄ちゃんがゆっくりと問いかける。
「この子をどうするつもりなんですか?」
高校生が冷静さを取り戻し淡々と話す。
「どうもしない。その子は俺達の商売道具に傷をつけたんだ。
親の所へ連れていって謝ってもらい、修理費を請求するだけだ。それ以外は何もしない」
兄ちゃん達はそれぞれ楽器が入ったケースらしき物を肩から下げている。
どうやら小学生の子が悪戯か何かをし、兄ちゃん達の楽器を傷つけてしまったようだ。
高校生は親と言う言葉にバツが悪そうな顔をする。
「修理費は幾らぐらいになるんですか?」
少し安心した口調で高校生が問いかける。
「大体ざっと見ても4・5万程度だ。それがどうかしたのか?」
真中の兄ちゃんが不思議そうに聞き返す。
「ここで修理費を払い、この子に謝らせます。それでこの子をした事を親に告げる事だけは見逃してあげてください」
頭を下げながら高校生は許しを請う。
「・・・俺達は良いがその子の為にはならんぞ」
「この子には後で僕から言い聞かせます。ですから・・・」
「・・・分かった」
何か理由があるのだろうと冷静に判断した真中の兄ちゃんは、それ以上は何も言わなかった。
「ほら、この人達に謝るんだ」
「うん・・・」
高校生が小学生の背中を押して促す。
「・・・ごめんなさい」
少しの間の後、小学生は謝った。
すると真ん中の兄ちゃんは一つため息をすると、返事をした。
「・・・もうこれからはあんな事をするんじゃないぞ。分かったな?」
「・・・はい」
小学生は消えそうな声で返事をする。
「・・・これが修理費です」
高校生が財布から5万円を差し出す。
「分かった。だが君はこんな事をして何か特があるのか?」
兄ちゃんの一言に高校生は下を向き押し黙る。
「・・・すまんな。聞かなかった事にしてくれ」
そう言うと3人は通りへと消えていった。
「・・・もう2度とこんな事をするんじゃないよ。どんな恐い目に会うのかもう分かっただろ?さ、分かったら家に帰りな」
「・・・うん!・・・お兄ちゃんありがとう!」
小学生は泣き顔を服でこすって、精一杯笑いながら通りに駆け出していった。
裏路地に一人取り残された高校生は、ため息をつくと下を向きながら沈んだ顔を浮かべる。
「・・・親・・・か・・・父さんは僕の事を覚えてくれているのかな・・・?」
言いきった後、青く澄んだ空を見上げて、少し物思いにふけながら高校生は裏路地を後にした。
・・・彼は親が嫌いだった。母親は自分が幼い頃に逝ってしまった。
父親と1年間ほど一緒に生活したが会話は少なく、家に帰って来ない事もしばしばあった。
その後高校に入る為に上京し、今までは高校生の外見の割りには大学生をやっていた。
名は碇シンジ・・・年は数えて21才。現在大学4年生。
上京してこの街に来たのは7・8年ほど前のことである。
高校に入るとは名ばかりで、自分の事をこれっぽっちも考えていないような父親から半場逃げてきたようなものだ。
「逃げちゃ駄目だ・・・頭では分かってるのに・・・」
いつものレパートリーの曲をウォークマンで聞きながら家に帰っていく。
右手には鞄。左手には先ほどコンビニで買ってきた袋が1つ。
中には今日の分の晩ご飯の材料と飲みたくて買った缶の無糖紅茶が2本入っている。
「さっきの子・・・親に知られて叱られてないだろうか・・・」
自分もさっきの小学生同様の事を過去にしてしまったために、
その事を知った父親に殴られた。散々な目にあった為に今だにその事を忘れられずに引きずっている。
思えば自分が父さんを嫌いになったのも、あの頃からだったかもしれない。
(思い出したくもない!あんな奴の事なんて!!・・・思い出したくも・・・)
頭に思い出てきた記憶を振り払い、近くの公園に足を向ける。
公園のこじんまりとしたベンチに腰をかけ、コンビニのビニール袋の中から紅茶を取り出す。
ひんやりと冷えていてまだぬるくはなっていなかった。
プルタブを起こし、蓋を開けて一口飲んで止める。
無糖なのにほんのりと甘い感覚が口の味覚中枢を刺激する。
「冷たくて美味しいや・・・」
夕焼けになってきた空を見上げながら、彼は紅茶を味わう。
「・・・一体僕は何をしてるんだろう?」
「馬鹿じゃないの?紅茶飲んでのほほんとだらけてるだけでしょ?」
「・・・え!?」
自分の今の生き方を見て呟いただけなのに・・・
こともあろうに、後ろから答えが返ってきた。
そして・・・彼は答えた主の方に首を向けた。
「・・・君は・・・?」
・・・・・・・・TO BE CONTINUED・・・・・・・・
デニム「まぐろさんから連載物をご投稿いただきました。ありがとうございます」(^^)
シンジ「表現、ユニークですね。特に絡まってきた人たちの呼び方が『兄ちゃん』って」(笑)
デニム「小さなギャグが入ってますよねぇ」(笑)
シンジ「気になるのは…最後で僕の自問自答に勝手に答えた人ですね」
デニム「…否応無くあの人でしょうが」(^^;
シンジ「…ですよねぇ」(^^;
デニム「では、これからも頑張ってください。まぐろさん」(^^)
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jeimusubond@hotmail.com
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