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届かない恋
《路地裏》
「あの…貴方の名前は?」
「え…僕はシンジ、碇シンジだよ」
なんでもない、自分を名乗った少年。
それでも、貴族の機嫌を取るためだけに挨拶をする
屋敷に来る人たちがする挨拶とは違う。
「あ…私は…惣…あっ!」
うっかり自分の名前を言い出しそうになり、
慌てて名前を変えて自己紹介をする。
「私は…綾波アスカといいます」
これは、以前屋敷に訪れた別の貴族の綾波伯爵の名字をそのまま使った。
なぜか名前を言ったとたんに彼の表情が曇った気がしたが、構わず彼は返事を返した。
「…ふ〜ん…結構可愛いね」
「あ…ありがと」
アスカは、顔を少し赤らめながら俯いた。
「ところで、どうしてこんなところにいるの?今日は月に一度のお祭りのはずなのに…」
「別に…僕はあまり興味が無いよ」
かぶりを振って、彼は後ろを振り返った。
「それに…貴族はあまり好かないんだよ」
「…え?」
貴族が嫌い…そう言われたのは初めてだった。
そもそも、惣流家は民衆に対して悪いことをしたことはない。
逆に支持があるからこそ、こうした祭りまである。
「…どうしてなんですか?」
「…君には関係ないから」
後ろを向かず、彼はただ先ほど世話をした
猫を暫くの間探していた。
「…私、こっちを探してみます」
「いいよ。別に君は探す必要が…」
振り返った時、すでに少し先にアスカは走り出していた。
「…だって、二人で探したほうが効率がいいじゃありませんか」
アスカは、振り返って彼に笑顔を見せた。
なぜだか分からないが、彼…碇シンジの顔に
影がさしたような気がして、ほおって置けなかった。
ただ…
「貴方って、笑顔のほうが素敵ですよ〜」
もう一度、彼の笑顔を見てみたかったから…
「…なんなんだよ、あの子は」
アスカの声に、彼もまたさきほどの彼女のように頬を赤らめていた。
「…ごめんなさい。見つからなくて」
約1時間。猫を探してみたが、いっこうにアスカは見つけれなかった。
「もう、いいよ…また明日、ひょっこり出てくるだろうから」
「…そうなんですか?」
「うん。野良猫って…気まぐれだから」
「気まぐれ…?」
「飼いならした猫と違って、野良猫はもっと
自由気ままに行動するから…いつ、ここに来るかも分からないよ」
「へぇ…そうなんですか」
「…君にも迷惑かけたし…祭り、一緒に回らない?」
突然、彼からそう言われた。
「え………分かりました。お願いします」
とにかく、一人でいる時に分からないこともあったし、
いろいろと街の中も案内してもらえる。
心の中で納得したアスカは、彼…
シンジにいろいろと町を回りながら雑談を聞いた。
「…ありがとう。一緒に回ってくれて」
あらかた回ったところで、シンジはアスカにそう言った。
「いいえ…こちらこそ、ありがとうございます」
今日、アスカは今までの人生で
確実に充実した日を送った。
知らないことを教えてくれたシンジに対して
アスカは心のそこから感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「いいよ、別に…ところでさ」
「はい、なんでしょう?」
「…なんで、敬語なの?一応僕は14歳なんだけど…
もしかして君見た目より幼いの?」
「あ…」
たしかにそうだった。
彼に会ってからはずっと敬語で話していた。
といっても、彼女にとってはそれが標準語。
タメ口を聞けるのは、昔から友達だったヒカリだけだったし、
異性に向かっては使ったことがなかった。
「…ごめんなさい。母が言葉遣いには煩いので」
もっともらしいことを考え、アスカはなんとか答えた。
「…別に、僕に対してはいいよ。
それに…逆に話しにくくなっちゃうし」
シンジはぽりぽりと頭を掻いた。
「あ、はい…分かり…分かったわ」
「…それでいいよ。ありがとう」
また、笑顔が見れた。
それだけでなぜだか今までの嫌な気持ちが消えていった。
彼には人を癒す力でもあるんじゃないだろうか…
「それよりさ、君の家はどこなの?」
「…!?」
それは言えないことだった。
だが、どういえば言いのだろうか…
アスカは必死で回避の方法を考えた。
「…私の家、この町じゃないの…すごく遠いから…
たった月に一回だけど、この祭りのために来るの…」
「へぇ…大変だね。じゃあ、誰か家族と一緒に?」
「ううん…友達と二人で…今は別行動してるけど。
まあ、もうすぐ落ち合う予定なんだけど」
さすがにばれてしまうのではないかと思ったが、
彼はさほど怪しまずにいてくれた。
「危ないなぁ…女の子二人でなんて」
「何回も来てるかから…大丈夫よ」
とにかく、隠しとおすところは隠しておかないといけない。
「そう?じゃあ…来月までは会えないか」
彼の言葉に、アスカは心のうちに思った事を尋ねた。
「….あの」
「うん…何?」
彼が、また柔らかな表情で聞いてくる。
もう、アスカにはこの思いがなんであるかが…
少しは分かってきた…
「…また、一緒に回ってくれない?」
「…もし、来月来てくれるんだったら、
あの猫がいた場所に…」
「うん。今日は…ありがと〜」
手を振りながら、アスカは駆け足で
ヒカリがいる場所に戻っていった。
「…アスカ。どうだった?」
先に、ヒカリは合流地点で待っていた。
「本当に楽しかったよ。いろいろなことが学べたもん」
「そう…一回きりだけど、いい経験できたね」
「あ…」
「…どうしたの?」
「ううん…なんでもない」
たしかに、一回きり…なにがなんでも、
二度も両親が外出を許してくれるとは思えない。
ただ…約束。それだけが気がかりだった。
「…ヒカリは、どうだったの?」
「え…あ…そ、その…」
とたんに、ヒカリは顔を真っ赤にした。
「あ…何かあったわね?話なさい、全部よっ!」
「な、なんでもないってば〜」
ヒカリを攻め立ててみると、
その幼馴染君と仲良く二人で祭りを見て回ってたらしい。
…ともかく、私はヒカリと一緒に無事祭り事を終えて屋敷に引き返した。
「…今日は疲れたなぁ」
寝室に戻ったアスカは着替えを済まし、
ベッドに潜りこむ。
「…彼、今ごろどうしているのかなぁ」
昼間会った、これといって目立たない、普通の子。
でも、その笑顔はいつもの自分にはない物を感じさせてくれた。
そして、彼に抱いた感情がなんなのかも…
ヒカリに以前言われたことのある、『恋』というもの。
「…もう一度、彼に会いたいなぁ」
呟くようにして、彼女は眠りについた。
そして、次の祭りまでの一ヶ月は彼女にとって長く感じるものになる…
デニム「どうにか参話目ですねぇ」
アスカ「ていうか…一目ぼれな訳?」
デニム「たぶんそうなるんでしょうね。ただ、そういうことがまだ完全に分からないって所でしょうか?」
アスカ「…しかも、なんでレイを名乗ってるのよ、アタシは」(−−;
デニム「さあ、なんででしょう?」
アスカ「…答えなさいよ」
デニム「ネタバレになりますんで、だめです」
アスカ「…重要なネタなわけ?」
デニム「…半々って所ですね」
アスカ「何よ、それは」(^^;
デニム「とにかく…次回からは…さらに書きにくくなっちゃうかも」(^^;
アスカ「…頑張りなさいよ。一番進行度が低いんだから」
デニム「まあ、頑張ります。それなりには」(^^;
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namiko-w@axel.ocn.ne.jp
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